2022年採択企業 インタビューVol.3

「個別化エンジン」で、

一人も取りこぼさない

子宮頸がん対策を実現する

2023/03
「個別化エンジン」で、一人も取りこぼさない子宮頸がん対策を実現する
2022年3月から始まったかんぽ生命 - アフラック Acceleration Program(以下、本プログラム)。2つの大手保険会社が提携し、新しい取り組みを生み出す本プログラムは、多くのスタートアップからの注目を集めています。今回は、第一回目の本プログラムに採択されたスタートアップ企業の一つ株式会社Godot(以下、Godot)より代表取締役の森山さんを迎え、Hatch Healthcare株式会社(以下、Hatch Healthcare)の萩原さんと共に本プログラムに参加してみての手応えや、今後の展望などを語っていただきました。

今回の対談の参加者
Godot 代表取締役兼CEO 森山 健
ゴールドマン・サックス投資銀行部門に新卒入社。その後、3社の共同創業と売却、オックスフォード大学客員研究員などを経て現職。行動科学とデザイン思考で政策課題に挑むNPO法人PolicyGarageの理事も務める。

Hatch Healthcare 萩原啓太郎
理学博士取得後、産業医大助教を経て、郵送検査のスタートアップにて研究開発の責任者として従事。その後、男性不妊の郵送検査の代表取締役、大手印刷会社のヘルスケア新規事業の立ち上げに参画し、2021年12月より現職。現在はHPVセルフチェック &Scanサービスの事業統括を担当。

本プログラムの背景
日本郵政株式会社、日本郵便株式会社および株式会社かんぽ生命保険とアフラック生命保険株式会社は、がん保険販売を始めとする様々な分野での取り組みを通じ、長年にわたり提携パートナーシップを深化させてきました。がん保険の販売推進に加えて、新たな協業や地域・社会の課題の解決を通じた共有価値の創造の取り組みの一環として、2022年から本プログラムを実施しています。

異なる武器を持ちながらも、同じ価値観を共有していた2社。

Godotの事業内容と、本プログラムへの応募のきっかけについて教えてください。
森山
Godotでは、一人ひとりに合わせて健康行動を促す個別化エンジン「Nudge AI®︎」の開発・提供に取り組んでいます。人間の感性や理性を科学的に分析し、より良い生活のための行動変容と意思決定を促すことを目的とした事業を展開しています。これまでに厚生労働省と協働して、各地の自治体の公衆衛生領域(がん検診受診率向上等)に貢献し、WHOや国連事業にも採択されてきました。
萩原
「行動科学」という、前例の少ないアプローチについて、各地の自治体がしっかりと理解したうえで導入にいたっているケースは珍しいと感じ、私も以前からGodotさんの取り組みには注目させていただいていました。
森山
本プログラムについて知ったときは、またとないチャンスに気持ちが高ぶりました。というのも、Godotの創業メンバーの一人が子宮頸がん対策の取り組みを積極的に行なってきたという経歴もあり、「がんといえばアフラック」というほど、アフラックグループのこれまでの取り組みやビジョンを参考にさせていただいていたから。いつかご一緒できればとも考えていたので、この機会に応募させていただきました。
萩原
同じ課題に取り組んでいた共通点はありますが、Godotさんと私たちの強みは異なりますよね。私たちにはサービスやツールを開発して提供していくことはできますが、やはりそこから先の柔軟さに欠けています。一方でGodotさんは、サービスや商品というよりもそれを訴求する「仕組み」そのものを変えていく力を持っている。その力を活かすことができれば、私たちの掲げるがんにかかわる課題を社会全体で解決するために、様々なステークホルダーが連携・協業する仕組みであるキャンサーエコシステムの構築にも役立てられると思いました。
森山
アフラックグループのがんに対する取り組みでは、一時的なものではなく、長い時間をかけて一人ひとりに寄り添っていくことを大切にしていますよね。じつは行動変容も、一時的なアクションでは結果を得ることはできず、継続的なアプローチが重要な領域です。私たち2社が同じ価値観を共有できているという点からも、コラボレーションすることに大きな意義があると感じましたね。

キャンサーエコシステムの底上げを、科学的側面からサポートしていく。

本プログラムでは、どういった内容の提案をおこなっていったのですか。
森山
科学的根拠に基づいた子宮頸がん予防を推進していく仕組みづくりをご提案させていただきました。アフラック生命の掲げるキャンサーエコシステムの実現には、様々な行動変容が必要です。定期的な検診、処方通りの治療、継続的なアフターケアなどなど。そして、そういったがんとともにある人生―サバイバージャーニーの中で行動科学を活かすことのできるタッチポイントはかなり多くあると思います。私たちは科学的側面から、キャンサーエコシステムの構築をサポートしていけたらと考えていました。
萩原
「&Scan」などのサービスを提供していく中で、ユーザーそれぞれの想いや背景に寄り添いきれてない部分があるかもしれないと感じていました。がん検診に足が伸びないことにも、なにか理由があるはずですが私たちはなかなかその言語化に時間をかけることができず、経験則でご案内してしまうことが多くありました。森山さんのおっしゃるように科学的な根拠に基づいたご案内は、まさに私たちの求めているものだと感じましたね。
森山
具体的には、まずは世の中にある学術的な分類法に則って、Hatch Healthcareさんが何をしているのかをしっかり言語化していくことを提案しました。きちんと定義していくことで、再現性も拡張性もぐっと高まり、信頼度も増していきます。キャンサーエコシステムの構築の底上げのためにも、いずれは他のベンチャー企業さんも巻き込んだ大きな仕組みを作っていくことも視野にいれたご提案でした。

実現が難しかった「対自治体」のサービス開発に、特化することができた。

本プログラムを通して、新たな発見や課題などはありましたか?
森山
この取り組みを進めるなかで、「対民間」と「対行政」とではサービスの設計思想が大きく異なるのだということを改めて実感しています。
中村
具体的にどんな違いがあると感じていますか?
森山
民間の場合はマーケティングの手法に則ってターゲットを絞り、効率よくアプローチしていくやり方が主流だと思います。しかし、行政の場合は最初からターゲットを絞ることはまずありません。より公正に、多くの人に対してアプローチしていかなければならない。言い換えれば、そういった多様性を包括することができるサービスしか受け入れられないのではないでしょうか。
萩原
まんべんなく行動変容を実現していくのは、とても難しいようにも感じます。
森山
はい。そこで私たちは、私たちの強みとする「個別化エンジン」を逆手にとって行政にも受け入れられるサービス設計を行なっていくことにしました。民間では、個別化エンジンを使う理由は効率性を上げるためです。しかしここでは、個別化エンジンで多様なニーズに応えることで、一人もとりこぼすことのないサービス設計を試みました。

萩原
そういったコンセプトでの技術開発を行なっていたから、これまでも各自治体が積極的にサービスを受け入れていってくれたのかもしれませんね。
森山
そうかもしれません。狙いは一番拾い上げるのが難しかった層。過去に一度もがん検診に足を運んだことがない人たちの行動すらも変えることができるのだと知ってもらえたらと考えながらサービスを開発しています。
萩原
一番課題に思っている部分にアプローチし、結果をしっかり出す。そしてその根拠をしっかり言語化して示すことができる。各自治体が導入を検討する際のパーツをしっかり揃えることができているのは本当にすごいことだと思います。
森山
今はまだ、新たに導入を検討していただけそうな自治体に私たちの取り組みをご提案している段階。これからどんなリアクションが得られるか、楽しみです。

アクセレレーションプログラムは、ベンチャー企業の格を上げてくれる。

本プログラムを経て、今後挑戦したいことなどはありますか?
森山
Hatch Healthcareさんとご一緒させていただく中で、生命保険業界では数十年単位という本当に広く長い視野で市場を捉えながら事業を動かしているとわかりました。このプログラムで触れることのできた、より広くてダイナミックな視野を身につけて、アフラックグループ全体を巻き込みながら、より大きな仕組みづくりに貢献していけたら嬉しいです。
萩原
一方で、長期的な目線で市場を見ているからこそ挑戦できないことや背負いきれないリスクが私たちにはあります。でも、大きなリターンのためにはリスクをとることも避けられません。こういったプログラムに参加してくださるベンチャー企業の皆さんは、これまでに様々なリスクを切り抜け、実績を残してきた方々ばかり。ぜひその姿勢をそのままに、私たちの持つアセットを最大限に活用し、一緒に大きな実績を残していただければと思います。
本プログラムについて、どのような可能性を感じていますか?
森山
ベンチャー企業にとって、大手企業とタッグを組むのはその企業の格を上げ、その先の企業の成長可能性にも大きく影響してくると感じています。初期のベンチャー企業にこそ、このチャンスをつかんでいただきたいですね。それから、本プログラムに参加しているどのベンチャー企業もとてもレベルが高く、大きな刺激を受けることができました。それだけでも、このプログラムに参加する意味はあると思います。
萩原
本プログラムもまだまだ改善の余地はあります。たとえば、私たちアフラックやHatch Healthcareがどんな事業を展開していて、どんなアセットを持っているのかをより具体的に提示していければ、より応募ハードルが下がるのかもしれないとも考えております。
森山
そこは難しいところですね。アフラックグループの現状や抱える課題を明確に伝えることも重要ですが、そこにピンポイントで最適解を見出してくれる企業だけでなく、もっと型破りで、その課題の根本から別の捉え方をしてくれるような企業にも出会えるのが本プログラムの面白いところだとも思いますから。
萩原
なるほど。そのバランスが大切ですね。そういった意味では、一見関係がないように思われる事業展開をしているベンチャー企業の方にもぜひ一度本プログラムについて話を聞きにきてもらいたいですね。広い視野で、ゴールを決め切ることなく、まずは一歩踏み出してもらえると嬉しいです。
対談は以上となります。お二人ともありがとうございました!
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